日本酒について知りたいと思ったときに読むブログ

日本酒についての知識や学び方などを書いていきたいと思います。

日本酒資格を取得して専門家になるには

日本酒資格を取得して専門家になるには Part1

 

こんにちは、並里です!

ワインスクールのアカデミー・デュ・ヴァンにてSAKE DIPLOMA試験対策講座の講師を担当しております。

 

最近では日本酒好きが高じて「日本酒の魅力を発信したい」という想いを持つ方が増えているように思います。

発信により説得力を持たせるために日本酒資格を取得したいと考える方も多いのではないでしょうか?

 

私も日本酒業界内では割と資格を取得している方だと思いますので、それぞれの資格の特徴について、記事にしたいと思います。

どんな資格を取得するか、迷っている方は是非ご参考にして下さい。

 

 1.大手日本酒資格団体「SSI」の資格

■利酒師

これが日本酒の業界では最も有名な資格です。

私が業界に入った頃は、日本酒の資格と言えばほぼこの資格を指していて、会社に入るとまずはこの資格を取れと言われたものでした。

「日本酒業界の運転免許」と言われる事もあり、業界内としては「すごい!」というよりは持っていて当然というようなイメージがあったように思います。

 

●内容

非常に網羅的です。

日本酒の特徴を薫・爽・醇・熟の4パターンに分類し、それぞれのパターンに応じた提案をしていくというところに特色があります。

また、日本酒そのものの知識だけでなく、マナーやおもてなし、日本の文化や提案のポイントなど、内容は幅広いです。

 

試験では筆記の他、テイスティングコメント、劣化酒の判別、季節に応じた企画プレゼンテーション等が問われます。

 

●難易度

合格率は70%程という事を聞いたことがありますが、ちゃんと勉強していればほとんど落ちることはないと言われています。

テイスティングについてはキャラクターが明確な4タイプをブラインドで判別しコメントしていきます。

タイプを間違えてしまうとコメントが大きくズレてしまいますので不合格になってしまう可能性もありますが、しっかり練習すれば決して難しくはありません。

 

●こんな方にオススメ

・日本酒だけでなく、日本酒にまつわる文化等、基礎的な知識を広く学びたい方

・協会では別の酒類やサービス等の資格も認定しており、それらの講義はWebで無料で視聴出来ます。それらの講義にも広く興味がある方

・次のステップが用意されている資格ですので、それらを目指す上昇志向の方

・試験がほぼ毎月行われているので、すぐに資格取得して活躍したい方

 

■国際利酒師

利酒師の外国語版です。

提携校により英語、中国語、韓国語、フランス語等があります。

 

●内容

利酒師とほぼ同様かやや簡略化した内容の教材を用います。

 

●難易度

第二言語で行う事を除けば、利酒師と同等かやや易しいように思います。

言語能力により難易度が変わります。

 

●こんな方にオススメ

・国際的に活躍したい方

清酒の知識に加え言語能力をアピールしたい方

・利酒師よりやや安いため、利酒師受講料が高いと言う方も

intl-kikisakeshi.jp

■酒匠

利酒師と焼酎利酒師の上級資格です。

利酒師と焼酎利酒師、どちらからステップアップしても構いませんが、両方の知識を試験で問われますので「ブラッシュアップ受講制度」等を活用して知識を習得しておくと

良いと思います。

サービスやおもてなし等については問われず、よりテイスティングに特化した専門家というイメージです。

 

利酒師が世界に数万人いるのに対し、酒匠は約1%の数百人程度しかいません。

この上級資格から希少性は出ますが、少ない分知名度が低く「利酒師」の方が通じると言うこともあったりします。

 

●内容

日本酒と焼酎の筆記がありますが、レベルとしては利酒師・焼酎利酒師と大差なく、過去問等をしっかり復習しておけばさほどの問題はありません。

テイスティングでは利酒師の試験時間と同じ時間で倍以上のテイスティングアイテムをこなすスピードが求められます。

焼酎のタイプ分類は4分類ですが、日本酒のタイプは中間的なものを含め8つのタイプに増えます。

それら分類するだけでなく、香り・味わいを軸に「マッピング」で表現する力、香味の特徴を「グラフ」化する力も問われます。

そして、日本酒にどのような酵母が使用されているか、精米歩合の大小等、焼酎についても主原料や麹原料、蒸留方法等をテイスティングにより判別する能力も問われます。

 

●難易度

利酒師と違い、酒匠は不合格となる率も割と高く、酒匠講座を受講した中でも試験合格までたどり着かずに諦めてしまう方もいらっしゃいます。

とはいえ、不合格の場合も不合格項目のみの再試験が受けられますので、あきらめなければ合格することが出来ます。

 

●こんな方にオススメ

・利酒師だけではテイスティングがものたりない方

テイスティングで製法等の特徴まで推定出来る様になりたい方

マッピングやグラフで視覚的に表現したい方

・更に上級のテイスター認定が用意されているので、上昇志向の方

ssi-w.com

■日本酒学講師

※こちらの資格については私は取得していませんので、詳細についてはリンクをご参照下さい。

日本酒ナビゲーターという利酒師の前段階の一般消費者向けの資格を認定する講座を開催する事が出来ます。

酒匠と同様、利酒師・焼酎利酒師の上級資格です。

酒匠がテイスティングに特化しているのに対し、日本酒学講師は「教える」という部分に特化している資格です。

 

●内容

日本酒の知識の他、講座を行うのに役立つ内容の講義を受け、模擬講義などの試験を行います。

詳細はリンクをご参照下さい。

 

●難易度

こちらについても実体験ではないので詳細の記述は避けますが、酒匠と同等の評価がされる認定ですので、決して簡単なものではないと思っていただければと思います。

 

●こんな人にオススメ

・協会公認で日本酒講座を行いたい方

・資格認定で副収入を得たい方

・講師力を向上させたい方

lecturer.ssi-w.com

■SSI研究室専属テイスター

酒匠の更に上級の資格です。

酒匠が世界で数百人なのに対し、専属テイスターは世界に数十人です。

酒匠に合格後、月に一度行われる講座・訓練を数回受講し、その後認定考査・面接に合格する事で専属テイスターとして活動する事が出来る様になります。

 

SSI研究室では香味評価についてや海外の日本酒嗜好調査アンケートなど、プロジェクトを立ち上げて活動し、協会の活動や教材に活かしていきます。

酒匠・日本酒学講師までが協会の用意したトレーニングを受ける側であるのに対し、専属テイスターではそれらの教材に影響を与える側に足を踏み入れる事もあるということになります。

活動については任意で、プロジェクト毎に立候補してメンバーに加わるイメージです。

 

●内容

月一度の講座では「ひやおろし」や「芋品種」など、その時々のテーマ毎に集中的なテイスティングと座学を行っていきます。

ただし、講座の内容が直接試験に役立つというイメージではなく、あくまで自分の実力向上のためと考えるのが良いかと思います。

 

酒匠の試験以上にコメント量も求められ、スピードが必要になる試験です。

また、出題サンプルも酒匠以上にバリエーションがあり、タイプ分類の判断が微妙なものも含まれていた様に思います。

 

面接については研究室での活動について意思を確認する程度で、合否に大きく関わるイメージではないかもしれません。

 

●こんな方にオススメ

・最上級認定を目指したい方

・能力を活かして協会での活動に参加したい方

ssi-w.com

 

■きき酒マイスター Master of SakeTasting

本醸造協会が認定する資格です。

醸造や香気成分等について科学的に学びますが、試験は全てテイスティングです。

合格者は今までに百何十人ほどです。

業界外にはあまり知られていませんが、蔵の方は知っている方が多いです。

 

●内容

試験の内容は下記のとおりです。

①においの識別
②アルコール度数の順位 順位法
③日本酒度の順位 順位法
④甘味の識別 三点識別法
⑤香気特性の記憶と識別 マッチング法
⑥酸味の識別 二点識別法
⑦味の濃淡・甘辛の識別 タイプ当て
⑧タイプ別清酒の記憶と識別 マッチング法

テイスティング数は多いものの時間にはある程度の余裕があるので、じっくりと慎重に判別していくのが良いかと思います。

微妙な差を判別したりという事があるので、試験直前期には濃い味付けのものを避けるなどして鋭敏にしておくことをオススメします。

 

●難易度

まるまる2日間講座と試験を繰り返し、1つでも合格ラインを下回ると認定を受けることが出来ません。

なかなかプレッシャーがかかる試験です。

受験者はほとんどが酒造関係の方で、まれに酒販がいるようなイメージですが、僕が受けたときは全国から25名の受験者が集まり合格者は7名でした。

 

●こんな方にオススメ

・商品管理・醸造を担当している方

・科学的根拠をもって香りの特徴の指摘(官能評価)が出来る様になりたい方

・難易度の高い資格を目指したい方

・公的な団体の認定を受けたい方

・酒蔵の人に通じる資格を目指したい方

 

清酒専門評価者

日本酒業界で最難関とされる資格。酒類総合研究所が認定しています。

この資格者も百数十人ほどです。

以下公式ページの説明分です

 

 感覚の感受性が高く、清酒の香りや味の多様な特徴を評価するのに一貫して反復可能な能力を有している評価者で、清酒の官能評価の経験があるとともに、清酒の製造方法や貯蔵・熟成に関する知識を有している専門家です。

正式名称は「清酒の官能評価分析における専門評価者」

英文名称は「Sake Expert Assessor, NRIB」

官能評価者は以下のような段階に分けられます。

①評価者=官能試験に参加する人

②選ばれた評価者=官能試験を遂行するだけの能力があるとして選ばれた評価者

③専門家=特に能力があるとして選ばれた評価者、または対象物についての知識があり、評価能力が通常の人より優れた評価者

④専門評価者=感覚の感受性の程度が高く、また、官能評価分析の経験がある選ばれた評価者の事で、多様な試料を評価するのに一貫した反復可能な能力を持つ評価者

 

つまりこの試験では「専門家」の中でも特に優れた感覚を持つものを「清酒専門評価者」として認定する、と言うことです。

聞いただけでも難しそうですよね笑

 

●内容

4日間かけて様々な講義とテイスティングを行いますが、認定のための試験は下記の通りです。

①基本味及びにおいの識別

②酸味及び甘味の差異の検出

③香味強度の順位付け

④においと味の記述及びその由来

⑤記述的試験法

 

正直なかなか大変です。。。

すべての項目が実技(テイスティング)なのですが、④においのと味の記述及びその由来は由来を答えなければならないので、「こういう香りがしたらこういう成分があって、それはどのような化学反応で生じる」というような事は前提として頭に入れておく必要があります。

 

この試験を乗り越えた後、清酒専門評価者を名乗るためには官能評価についての論文レポートを提出し、認められる必要があります。

(認められるまで何度も提出・添削を繰り返します)

 

●難易度

最難関だけあってやはり非常に難しいです。

受験生は蔵で普段から官能評価をしている方が中心で、酒類鑑定官という官能評価を生業としている方や産業技術センター等の研究機関の方もいらっしゃいます。

が、まず一発合格はないようです。

合格者の中から新酒鑑評会の審査員などが選出される事もあるようです。

 

●こんな方にオススメ

・業務上、官能評価を行っている(必須条件)

・化学、生物学、醸造学、統計学の基礎的な知識がある(必須条件)

①大学(短期大学を含む。)の農学・食品・生物系学科卒業以上の経験を有する方

職業能力開発促進法に基づく酒造技能士2級以上を取得されている方

③当研究所主催の酒類醸造講習(旧・酒類醸造セミナー)、旧清酒製造技術講習又は公益財団法人日本醸造協会主催の「実践きき酒セミナー」を受講済みの方

上記①、②、③のいずれかは必須条件

・最上級の資格に挑戦したい方

・業界内で認められる資格を取得したい方

・科学的・客観的で反復可能なテイスティング能力を取得したい方

www.nrib.go.jp

■その他の資格認定

私は取得していませんので詳細を語る事が出来ませんが、他にもいくつか日本酒に関する資格があります。

・日本酒ナビゲーター

・日本酒検定

・日本酒提供者マイスター

SAKE EXPERT

・日本酒伝道師

・新潟清酒達人検定

・酒造技能士

 

まとめ

・広く日本酒周りの知識を得たい方は「利酒師」を取得し、必要に応じて「酒匠」「SSI研究室専属テイスター」とレベルアップしていく

・日本酒・焼酎そのものの知識を深めたい方、またはワイン的な切り口から日本酒を理解し説明したい方はSAKE DIPLOMA試験を

・日本酒を教えたいという方は「利酒師」から「日本酒学講師」を

・酒造関係や官能評価を通じて業界に深く関わりたい方は「きき酒マイスター」や「清酒専門評価者」を

というように目的に応じて選んでいくのが良いかと思います。

 

資格は取って終わりではなく、その後どのように活用するか、そしていかにブラッシュアップしていくかという事が大事だと思います。

 

ごく簡単なまとめではありますが、この記事を見た方が資格を有効に活用し業界を発展させる仲間としてともに活躍出来る日が来ればと思います。